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鉄道事業黒字化体質へ、迫られる事業改革 九州旅客鉄道・青柳社長
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空中都市構想「諦めてはいない」
九州旅客鉄道㈱(福岡市博多区博多駅前3丁目)の青柳俊彦社長は、ふくおか経済1月号の新年抱負インタビューで「今できる範囲で収入を確保し、抜本的なコスト構造の改革に取り組む。苦しい状況が続く鉄道事業は収入が1、2割減っても利益の出る体質にする」などと意気込みを語った。主な内容は次の通り。
―2020年を振り返って。
青柳 新型コロナウイルス感染拡大の影響でさまざまな計画が中止となり、季節感もなく、1年がこんなにも短いと感じたのは初めて。4月から5月にかけての緊急事態宣言期間の運輸取扱収入は、対前年比約8割から9割減を強いられるなど、かつてない厳しさだった。その後、さまざまな取り組みで踏ん張ろうとするものの、「第2波」、「第3波」と報じられ、ズルズルと低調に推移してきた印象。
7月には記録的な豪雨が九州を襲い、県内では大牟田市や久留米市などで深刻な浸水被害水害が発生、熊本県では肥薩線も大きな被害を受けた。九州はここ数年豪雨による大きな被害が続き、今年も豪雨による被害が起きるのではという不安もあり、改めてBCP対応策を見直すことが必要と突きつけられた。
これまで事業の多角化を目指してきたが、これは、鉄道を基盤としてさまざまなサービスを提供することを前提としていた。その前提がコロナによって止められたのは、グループにとって壊滅的な年だったと言える。今回の経験を通じ、今後は自然災害と同じく感染症に対する備えも必要だということを念頭に入れ、事業運営を進めていかなければと実感した。
―コロナによる影響から各事業の数字はどれくらいまで回復しているか。
青柳 鉄道乗車率の回復は、売り上げベースで約6割。福岡都市圏内を中心とした近距離移動の乗車率は約7割で、通勤、通学利用者は約9割まで戻っている。この回復は想定よりも早く戻ったが、新たな働き方としてリモートワークが普及したことや、感染状況次第で大学や専門学校の講義がオンラインに切り替わることもあり、今後、コロナ以前まで回復するかは未知数。
駅ビルの来館者数は7、8割まで回復し、売り上げは8割程度まで回復している。
―収入面は。
青柳 2021年3月期の中間決算は、売上高は前年同期比41・5%減の1245億5200万円、営業損失は205億円の赤字、経常損失は195億円で、最終損失は102億円と減収減益。セグメント別では、新幹線関連工事が増加した影響で「建設部門」は対前年を上回ったが、それ以外の部門は全て減収。
6月の株主総会時点で「未定」としていた今期連結業績予想は、売上高が前年比67・4%の2917億円、営業損失は323億円の赤字、経常損失は314億円、最終損失は284億円を見込むなど、上場後、初めての大幅な赤字となる見込み。
―現在の中期経営計画について。今後の方針は。
青柳 コロナの影響でグループ全体を取り巻く環境は大きく変わったことを受け、経営数値目標、参考指標は取り下げることに。それでも、「更なる経営基盤強化」「主力事業の更なる収益力強化」「新たな領域における成長と進化」の3つの重点取り組みは現状を踏まえ、必要な修正を行いながら継続する方針。来年度は中計の最終年度となるが、業績予測は今年度の決算発表時に示す考え。
―「博多駅空中都市構想」について今後の計画は。
青柳 夢を形にすべく、関係各所と協議を進めています。本来であれば基本設計を進めていくはずでしたが、コロナの影響で一旦議論が止まっています。将来への投資を厳選しなければならない状況でもう一度、検討しているところです。しかし、実現へ決して諦めているわけではありません。
―秋には6社のグループで担う東京・虎ノ門2丁目の大型再開発が着工した。
青柳 地上38階建て地下2階建ての大型複合ビルの建設に、新日鉄興和不動産㈱や第一生命保険㈱など6社で構成された事業グループの1社として参画している。開発するのはオフィスや商業施設などが入るビルで、高度なBCP対策戒能に加え、国際化にも対応した建物が完成する予定。建物の開発だけでなく、周辺市街地のまちづくりとセットで携わることになっている。当社でこのような大型案件に携わるは初めて。
将来、博多駅の空中都市事業を手掛けていくためにもこの経験は必要と位置づけ、当社からも人材を送り込んでいる。また、博多コネクテッドなどこれから福岡市で手掛けられる大型再開発に生かせることも多いと期待している。
―鹿児島本線千早―箱崎駅間で新駅を設置します。
青柳 その他、県内で手掛ける再開発の進ちょく状況は。これまで「九大跡地利用4校区協議会」からの新駅設置要望を受け検討を重ねてきたが、福岡市との協議が整い箱崎キャンパス跡地の再開発に合わせて新駅の建設が始まることになった。2025年をめどに開業する計画。箱崎キャンパス跡地は福岡都心部に近く、にぎわいを生み出す新たな副都心となることが期待されている。当社ではエリア内のまちづくりに寄与できる駅にできると見込んでいる。
―宮崎市とその近郊では11月6日から宮交ホールディングス㈱などと共同でMaaSの実証実験をスタートした。
青柳 トヨタ自動車・トヨタファイナンシャルサービスが開発、提供するMas S専用アプリ「my route(マイルート)」を使用した実証実験に取り組んでいます。マイルートは、JR九州の鉄道や、宮交HDのバスなど、宮崎都心部にある複数の交通手段を組み合わせて目的地までのルートを検索し、予約、決済までを1つのアプリ上で行える移動サービス。今回の取り組みは、国土交通省と宮崎県、宮崎市、日南市からの支援も受け、アミュプラザみやざきの開業を機に官民一体で周辺の交通利便性を高められたらと考えている。
マイルートを活用した取り組みは今後宮崎だけでなく、九州内のさまざまな場所で取り組めると考えている。将来的には他の自治体への導入も検討しており、地方都市の交通手段の確保へとつなげたい。
―2021年に力を入れる点は。
青柳 新しい年を迎えても、コロナが収束したわけではない。仮に収束したとしても、移動需要が元の水準まで戻らない可能性も大いにある。
まずは今できる範囲で収入を確保することに努め、また抜本的なコスト構造の改革に取組み、各事業が持続できるような経営体質に改善することが重要だと認識している。
苦しい状況が続く鉄道事業については、収入が1割、2割減ったとしても利益がでる体質にしなければグループの将来像を描くことはできない。
これまで同様、これからもグループを支える基盤は鉄道事業。多くの事業が人流に関わるビジネスモデルで構成されており、鉄道事業がそれらのビジネスに相乗効果を生み出す存在であることに変わりない。時代に合った改善を進めながらも、これまで培ってきた経験、リソースなどを大切にしながら事業全体を伸ばしていく。
―新事業の計画は。
青柳 これまで鉄道事業以外の収入の柱の一つとして不動産事業に力を入れてきた。ホテルや商業ビルなど「人」を中心とした収益の確保に力を入れてきたが、今後は「モノ」を通じて収入を獲得できるビジネスモデルを思案している。
また、私募REITを組成し、不動産開発に循環型投資モデルを取り入れることも検討している。これまでも飲食、物販の事業はゼロからスタートさせた経験があり、新事業に対する独自ノウハウを積み重ねてきた。新しい取り組みを始める場合、そうした経験が生かせると信じている。新規事業等を通じグループが一丸となって、このコロナ禍を必ず乗り越えていく。
2020年12月29発行