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コスト上昇圧力高まり「価格転嫁必要なら今」 日本銀行福岡支店


週刊経済2022年6月28日発行

支店長インタビュー

日本銀行福岡支店(福岡市中央区天神)の冨田淳支店長(当時)は、本誌7月号「地場主要企業決算特集」に関連し、地元経済の概況について話した。以下、インタビューを抜粋。
―3月に発表した九州・沖縄企業の短観調査では、全産業の業況判断D.I.はマイナス5ポイントとなるなど7期振りの悪化となったが、景気の現状をどうみているか。
冨田 製造業、非製造業ともに、好調な業種があり、当地の景気全体としては持ち直し基調が続いている。製造業を中心に、設備投資が高水準な状態が続いていることも大きい。製造業における能増投資が目立つほか、DX、SX、気候変動問題対応、カーボンニュートラルを意識した投資も増えている。また企業規模に関わらず人手不足感が強まる中、省力化投資も活発だ。
―特に業況が明るい業種は。
冨田 製造業では電気機械、非鉄金属、鉄鋼などの好況が持続している。非製造業では対事業所サービス、情報通信、建設などが好調だ。中でも電気機械は、昨年6月から一貫して30ポイント以上のプラス局面が続いている。けん引しているのは半導体関連企業で、世界的な半導体不足を背景に、九州でも増産投資の動きが相次いでいる。一方で、半導体不足がマイナス影響を及ぼしている面もある。半導体部品の調達難で、基幹産業である輸送用機械を中心に、輸出向けの生産活動が抑えられている。この状況が続けば大きな足かせとなるだろう。
―今後の見通しについては。
冨田 全産業ベースで物価高や原油高などの影響が波及する可能性がある。もともと、コロナ禍から経済活動が再開していく中で需給バランスが崩れ始めていたのに加え、今年に入ってからは円安の問題や春先以降のウクライナ情勢、中国のゼロコロナ政策によるサプライチェーンへの混乱などの懸案が出てきている。当面、コストの上昇圧力は強まっていく公算が高い。
原材料コストが上昇しても、価格に転嫁できれば企業収益への影響は抑えることができる。実際、過去の原材料上昇局面に比べると、企業間での製品・サービス価格への転嫁が比較的円滑に進んでいるとの声が聞かれている。逆に言えば、価格転嫁が必要ならば今のタイミングを逃してはいけない。
最近は慢性的な人手不足も深刻で、賃金を引き上げるかどうかという悩みに直面している経営者も多い。ただ、原材料や原油などは間違いなく企業にとってのコストだが、賃金は「単なるコスト」と割り切れるものではない。賃金は従業員目線では所得であり、所得が底上げされればモチベーションや生産性向上などにつながり、ひいては消費を通じて企業の売り上げや景気の好循環にも直結することを忘れないでほしい。