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「コロナ禍を越え、再び成長軌道へ」 ANAホールディングス・片野坂会長


週刊経済2024年4月24日発行号

羽田―欧州路線で増便・新規就航

ANAホールディングス㈱(東京都港区東新橋1丁目)の片野坂真哉会長は、本誌単独インタビューに応じ、同社を取り巻く環境について「航空需要は順調に回復している状況。本当にうれしい。航空業界は再び成長軌道に立っている時期」とした上で、「羽田と欧州路線を中心に増便、新規就航を加速させていきたい」と話したほか、TSMCをはじめ、九州に半導体関連産業が集積していることは福岡をはじめとした九州における国際線需要の拡大に大きなチャンスになるとの見方を示した。主なやり取りは次の通り。
―航空需要を取り巻く環境について。
片野坂 昨年5月8日に感染症法上におけるコロナの類型が2類から5類に引き下げらたことで国内線が再び動きはじめ、国際線も厳しい出入国管理が解除されたことで、順調に回復している。「コロナを乗り切り、生き残っていきたい」と強く思っていたので、本当にうれしい限りだ。ANAグループの現状をいうと、国際線全体でコロナ前の19年比で7割くらいまで回復しているが、北米・アジア路線はコロナ前を超えている。欧州が8割、中国は6割くらいの戻り。国内線については9割まで回復しているが、オンライン会議などの普及でビジネスの回復は弱い。これをカバーするため、大都市圏から地方都市への移住、ワ―ケーションなど新しい生活様式を取り込むパッケージ商品づくりなどに取り組んでいる。
―国際線では羽田―欧州間の路線で増便、新規就航が活発だ。
片野坂 羽田は国際線専用の第3ターミナルに加え、国内線との乗り継ぎがスムーズな第2ターミナルでも国際線の運用を開始する。7月に羽田とミュンヘン、パリ線を毎日運航のデイリーに戻すほか、8月にはウイーン線を再開する。さらにコロナの影響で就航が伸びていた羽田とミラノ、ストックホルム、イスタンブールを結ぶ各路線も下期の期間中に開設する。
―福岡空港では増設滑走路が来年春にも供用を開始するほか、国際線ターミナルも拡張工事が進んでいるが、国内大手航空会社トップとしての期待感は。
片野坂 福岡の活性化に大きく寄与できると思う。コンセッション方式による福岡国際空港㈱が発足した時、永竿哲哉社長(当時)が「比類なき東・東南アジアの航空ネットワークを有する東アジアトップクラスの国際空港」というビジョンを掲げ、将来的には利用者数を国際線で1600万人、国内線で1900万人の計3500万人、路線数を100路線目指すというビジョンを発表された。地域を代表する空港運営会社の代表が前向きなビジョンを持つことは何より大切なこと。このビジョンが現実的になるチャンスが訪れている。九州に半導体関連産業の工場、新増設が相次いでいることだ。熊本以外でも広島や佐賀、長崎、鹿児島で新工場の新増設が相次いでいるほか、既存の工場も生産ラインを増強する動きが加速している。半導体は世界中から部品が来る。それに伴う人やモノの移動による航空需要は必ず訪れてくる。九経連のビジョンに「九州から日本を動かす」という素晴らしいフレーズがあるが、半導体産業についていえば「九州は世界を動かす」ことになるのではないか。私たちも新たな路線を展開するチャンスが生まれていると思う。
東京、大阪以外から国際線を就航してほしいという声を各方面からいただいている。「路線を引いてくれれば産業が…」という話をいただくが、航空会社の立場から言えば、産業が興り、そこに人やモノの流れが生まれることで新たな路線が生まれるというのが理想的な姿。熊本にTSMCが進出し、台湾のスターラックス航空はフラッグシップのチャイナエアラインより先にデイリー運航で就航している。これが象徴的な例だ。
―アジア路線が充実した福岡空港からANAグループが国際線を就航する可能性は。
片野坂 均衡ある国土軸としての航空ネットワークを考えると、地方都市の各空港から日本に近いアジアを結ぶ国際線ネットワークがあっても不思議ではない。しかし、当社を含めた大手、中堅の航空会社もマーケットのメインは首都圏にならざるを得ないのが実情。逆に東京と地方都市を結ぶ国内線ネットワークが充実していることを踏まえると、羽田や成田、関西に到着したお客さまを全国各地に送客する役割はしっかり果たしていきたい。