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「リカレント」「社会実装」テーマに戦略転換へ 九州工業大学


週刊経済2024年7月24日発行号

 三谷学長インタビュー抜粋

九州工業大学(北九州市戸畑区仙水町)の三谷康範学長は、本誌8月号「表紙の人」の取材に応え、「リカレント」や「社会実装」を軸とした戦略の転換については話した。以下、インタビューを抜粋。
―まずは現在の大学を取り巻く課題について。
三谷 国立大学が法人化されてから、今年でちょうど20年。この節目を今後の本学が進むべき道筋について改めて考える転換点と位置付けている。ここ数年で大学経営を取り巻く環境は一層厳しさを増している。例えば昨今の「賃上げ」ムードに伴う人事院勧告に基づき、職員の給与引き上げを求められるが、国立大学法人は公務員ではないので、賃金の上昇分が税金で補填されることはない。さらに光熱費をはじめ学校運営に関わるさまざまなコストが上昇しており、法人経営を圧迫している。だからといって、民間で言うところの「価格転嫁」で授業料を上げられるかというと、広く国民に高等教育を施す目的を持つ国立大学法人の性格上、簡単に結論を出せることではない。
―少子化で学生の総数自体も減少し続けている
三谷 慢性的な少子化により、直近の出生数は72万人台の水準まで減少した。現在の新入生に当たる18歳の世代は、まだ出生数が100万人くらいのボリュームがありますが、18年後にはそこから約3割減る。従来のように「若者」をターゲットとする戦略だけでは、大学の経営が立ち行かなくなる恐れがあり、「如何にマーケットとターゲット層を拡大するのか」という大きな課題に直面している。今後持続的に存続・成長していくためには、抜本的な戦略の転換が求められる局面だと考えている。
―どのような戦略に活路を見出していくか。
三谷 まず、ターゲット層の拡大については、「社会人」の取り込みに力点を置く考え。いわゆる「リカレント教育」、「リスキリング」のニーズをしっかり汲み取れるかが鍵。政府が積極的にリスキリングを推進する構えを見せ始めたことで、徐々にその機運が高まりつつある。ここをしっかりと強化すべく、4月にはリカレント教育を担当する専門会社「Kyutech ARISE」(キューテック・アライズ)を設立し、より本腰を入れてカリキュラムの構築や営業活動に取り組み始めている。
―その他の戦略は。
三谷 本学は、安川電機の創業者である安川敬一郎氏の投資により、産業界に貢献することを目的とした「明治専門学校」として創立した歴史があり、いわば産学連携からスタートした大学。この建学の理念に立ち返り、産学連携による研究や開発の成果を社会貢献に役立てる「社会実装」を大きなテーマに据えていきたい。大学発の研究成果を如何にして社会実装につなげていくかを念頭に、スタートアップや特許などの手段を用いた「ビジネス」としての出口戦略を見出し、そのために必要な投資や連携を講じていくつもり。これについては、現在建設中で社会実装を促進する新拠点、「未来思考実証センター(仮称)」が大きな役割を担うことになる。
―現在、特に力を入れている研究分野は。
三谷 最も知名度が高いのは航空宇宙工学、中でも小型衛星分野の研究開発です。宇宙産業に関する調査で知られる「BryceTech」のレポートでは、運用する小型・超小型衛星の数において、本学が大学・学術機関のランキングにおいて7年連続で世界1位となっている。その他、最近はTSMC進出に伴い、半導体関連の研究分野に注目が集まっているほか、専門人材育成のニーズも急速に高まっている。半導体企業向けの研修講座には申込が殺到しているので、ここはさらに充実させていきたい。