INTERVIEW
‟福岡名物”発祥にドラマあり―明太子・ふくやー
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本誌・ふくおか経済7月号では、特集「福岡名物の“ルーツ”に迫る」を掲載。全国的にも「食」の評判が高い福岡は、数々の「福岡名物」に彩られています。発祥のルーツを紐解く同特集の一部をご紹介します。
【明太子・ふくや】
試行錯誤重ねたロングセラー商品 製法伝授から1000億円市場に
写真:ふくや創業者の川原俊夫氏(ふくや提供)
福岡名物の代表格といえる辛子明太子。土産品や贈答品として大きなシェアを持つ一方で、日常の食卓に並ぶ家庭向けの食材としても全国に広く浸透し、市場規模は100億円を超えると言われる。この明太子を日本で初めて製造・販売したのが、㈱ふくや(福岡市博多区中洲2丁目)創業者の川原俊夫氏であることは、地元では広く知られている。近年、俊夫氏の生きざまを描いたテレビドラマ「めんたいぴりり」が人気を博したことも記憶に新しい。
おにぎりの具やパスタなど、今でこそメジャーな食品となっている明太子だが、約70年前の発売当初は全く売れず、店の片隅に置かれていたという。俊夫氏の孫にあたり、5代目の川原武浩社長は「明太子の販売を開始してから看板商品となるまでに、10年はかかったと聞いている。さらに、全国で食べられるようになったのは1980年代で、ここ40年くらいのこと」と説明する。
ルーツとなったのは、古くから韓国で食べられていた「明卵漬(ミョンランジョ)」。スケトウダラの卵を唐辛子やニンニクなどで和えたもので、スケトウダラが朝鮮語で「ミョンテ(明太)」と呼ばれていたことが「明太子」の語源でもある。しかし「味や香りの強いものと和えるミョンランジョと、日本で広がった漬け込み型の明太子は全くの別物」と川原社長は強調する。
時代に合わせ新商品も開発
写真:ふくや5代目の川原武浩社長。手にするのは昨年発売した「明太醤」
主力は現在も「味の明太子」だが、顧客の高齢化や贈答用の販売が縮小傾向にあることを受けて、近年では簡便志向を捉えた商品開発にも取り組む。2013年には、手軽に使えるチューブ状の「ツブチューブ」を販売。明太子の調味液をツナと合わせた「めんツナかんかん」も15年3月の発売以降、シリーズで累計600万缶を売り上げるヒット商品となった。さらに進化を遂げた、明太子風味の調味料も開発。明太子のほかにXO醤、味噌、トウチ醤などをブレンドした「明太醤(めんたいじゃん)」は大豆食品とよく合うといい、川原社長曰く「納豆に少し加えるのがおすすめ」だそうだ。
創業から70年以上、市場競争が激化する中でもパイオニアとして業界をリードし、成長を続けてこられた要因について「発祥の地が、今もなお経済成長の勢いがある福岡市だったことは大きい」と川原社長は「地の利」に感謝する。だからこそ、地域貢献も重要なミッションに位置付けており、俊夫氏が発案した「中洲まつり」をはじめ、博多祇園山笠、博多どんたくなどさまざまな文化・イベントを積極的に応援しているほか、Jリーグのアビスパ福岡への支援も長く続けている。創業者から受け継がれてきた地域への思いと、飽くなき商品開発への探求心を糧に、自ら確立した「福岡名物」の固定観念を覆し、さらなる進化を目指す。(編集部・内野悦子 本誌7月号特集「福岡名物の“ルーツ”に迫る」から一部抜粋)