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免疫細胞を神経細胞に「直接変化」させる手法を発見 九州大学


慢性期の脊髄損傷、脳梗塞の回復に光

九州大学(福岡市西区元岡、久保千春総長)大学院医学研究院の中島欽一教授の研究グループは1月10日、通常は脳や脊髄で働く免疫細胞を、機能的な神経細胞に「直接変化」させることに成功した。実用化されれば、脊髄損傷患者や脳梗塞患者の運動機能回復につながる可能性があるという。
脊髄損傷や脳梗塞などによって神経回路が傷つき失われると、神経伝達機能が絶たれることによる運動機能の障害、マヒなどの症状が引き起こされる。これを抜本的に回復させる治療法はいまだ確立されていない。今回の研究で注目したのは、神経損傷部位に集まり死細胞を除去する役割を持つ「ミクログリア」という細胞。細胞に遺伝子を加え、別の細胞に変化させる「ダイレクトリプログラミング(直接分化変換)という技術を用いて、「NeuroD1」という遺伝子をミクログリアに加えることで、ニューロンに直接変化できることを発見した。身体の部位ごとにニューロンの特性には差異が認められるそうだが、今回の直接変化では、その部位で機能していたニューロンと同様の特性を持っていることが分かった。神経を損傷した部位を問わず、損傷前の状態に近づけることができるという。
2月には京都大学が脊髄損傷患者を対象に、iPS細胞から作った神経のもとになる細胞を移植する再生治療の臨床試験を始めると発表。今回発見した「直接変化」と比較すると、ⅰPSを用いた手法は細胞をつくる時間と費用、他人の細胞を移植することに伴う拒絶反応や腫瘍化のリスクなどを内包しているが、直接変化を使った手法であれば「本人の細胞を変化させるスキームなので、細胞を一からつくる手間が要らず、腫瘍化のリスクも極めて少ない」と中島教授は説明。さらに、基本的に脊髄損傷から数週間以内の「亜急性期」が対象とされる細胞移植に対し、「慢性期の患者にも効果が期待できる可能性がある」とその違いを強調する。
今後、マウスを使った生体での実験や人体での臨床治験などを経て実用化を目指していく。中島教授は「100万人を超えると言われる脳管出血(脳梗塞や脳出血)患者や10万人以上と言われる脊髄損傷患者に対し、現状では数少ない回復の道筋を示した研究成果の一つとなった」と話している。

2019年3月5日発行