FEATURE

ふくおか経済EX 2010

第一交通産業グループ


“人”をつなぎ、“こころ”をむすんで半世紀

(写真)建設を再開した千早駅前のマンション

タクシー乗務員3500人を確保し稼働率アップ

今年6月に創業50周年の節目を迎える第一交通産業㈱。わずか5台のタクシーで創業し、今では全国30都道府県に展開を広げ、タクシー・バス約7,500台を保有する全国一のタクシー会社に成長した。半世紀の大きな節目を迎えて、田中社長は次のように語る。「会長が創業し育ててきた日本一のタクシー会社を引き継ぎ、新たな50年をどう築いてゆくかが課題。道交法改正を含めて業界を取り巻く経営環境が大きく変化するなかで、揺るぎない経営体質を確立して新しい一歩を踏み出したい」。
そのタクシー事業では、一昨年12月から積極採用を進めて3,500人の乗務員を確保。雇用不安が広がる中で社会的にも注目を集めたが、早くも効果を発揮し始めている。タクシー業界では、昨秋の法改正で増車が困難になると同時に、乗務員の勤務時間に厳しい目が向けられるようになった。こうした環境の変化のなかでも、同社のタクシー平均稼働率は3.2ポイント上昇し、平均年齢は2歳若返った。景気後退もあって業界平均の売上高が20%の落ち込みを見せるなか、同社の減少は4%ほどに止まっている。
また、新しい人材の登用は数字的な効果だけでなく、新風を吹き込みつつある。「多くの企業のなかから当社を選択して入社した人材で、自身の働き場として認識している。今までにはなかった人材であり、新しい歴史を刻む上で核になってくれると思う」と同社長は期待する。異業種からの若い人材は、新たな企業風土を築くための礎となりそうだ。

田中 亮一郎 社長
たなか・りょういちろう/1959年4月4日生まれの50歳。東京都出身、青山学院大学経済学部卒。82年4月全国朝日放送に入社。85年7月第一交通産業株式会社非常勤取締役に。95年5月副社長を経て、97年2月から代表取締役副社長。2001年2月社長。趣味はゴルフと中学時代から続けているテニス

千早駅前のマンションが建設を再開

経営の一方の柱の不動産事業でも、新しい兆しが見え始めた。栄泉不動産の破たんで中断していた千早駅前の超高層ツインタワーマンション。新たに大和ハウス工業とパートナーを組み、今年2月に建設を再開した。開発戸数は約500戸。同地区再開発の目玉ともいえる大型プロジェクトだけに注目される。また、バス事業を核に「まちづくり」にも乗り出した沖縄では、那覇市の旭橋駅周辺地区の再開発事業としてオフィスビルが完成。テナント入居はほぼ満室状態で、この4月から新都心の核として本格稼働する。
さらに、戸建て事業でも新たな展開を見せる。昨年11月に戸建住宅販売の第一ホーム㈱を立ち上げ、行橋や田川などの地方都市でミニ開発に乗り出した。建設資材の分離発注でコストを削減。タクシーの信用力をバックに、親会社の第一交通産業が住設機械なども買い取り、住宅を施工する工務店などに支給する仕組みを確立し、徹底したコスト削減でリーズナブルな価格設定を実現した。マンションなどの大型開発に比べて早期資金回収効果が期待できるため、分譲事業の第2の柱として位置づけて展開する。不動産不況といわれるなかでも、次の展開に向けて確実に布石を打っている。

(写真)懐かしい車両が並ぶ昭和30年代の創業期の営業所(左)。環境配慮と燃料費削減のため、ハイブリッド車導入も進めている(右)

地域振興のため「まちづくり」

同社は、1960(昭和35)年に黒土始会長が創業。言葉も定着していない時代からM&Aを進め、全国にエリアを広げながら規模拡大を図ってきた。免許事業で新たに企業を設立できない上、国の受給調整で増車もままならない業界だけに、規模拡大で安定経営を図るにはM&Aしかなかったともいえよう。
不動産事業もこうしたM&Aの過程で生まれてきた。経営権とともに取得した遊休地をそのまま売却するのでなく、地域振興を図るために「まちづくり」にも乗り出した。当初はテナントビルが中心だったが、やがて戸建住宅からマンション開発へと広がりを見せていく。今ではマンション供給戸数は1万戸を超えるまでになり、第2の柱へと成長した。
こうした展開もタクシーで培った地域での信頼関係が土台にある。全国30都道府県に広がるタクシー会社は、すべて地域子会社として分社化。M&Aの相手先企業から幹部社員を登用し、その地域に合わせた経営を進めている。地域で上がった収益は地元に還元し、地場企業として地域密着路線を展開。地域社会との信頼関係を築き上げた。
不動産事業だけでなく、地域に隠れた名産品を発掘し世に送り出す通販事業、介護や医療などの関連事業もこうした地域で培った信用の上に成り立っている。また、反対に関連事業がタクシー事業にフィードバックする部分も多く、グループとしてのシナジー効果を生み出している。

原点回帰で新たな一歩

創業50周年を機に掲げたテーマは「人をつなぐ、こころをむすぶ」。“地域”と“人”を経営の原点に置く同社らしいテーマだが、「地域社会に信頼される存在になるために、中身をしっかりしていきたい。信頼度や信用度という目に見えない部分を確固たるものにしたい」と同社長は今後の方向性を示す。
事業面では、昨年9月に㈱ミュンヘンオートの輸入車販売事業を全部譲渡。一昨年の消費者金融業からの撤退に続き、「タクシー」と「不動産」を二本柱とする本業回帰を鮮明に打ち出した。
厳しい経営環境のなかでも、次の展開に向けて確実に布石を打ってきた同社。創業の原点を見つめ直し、新たな50年に向けて確実な一歩を踏み出した。

黒土 始 代表取締役会長
くろつち・はじめ/1922年1月31日生まれの88歳。大分県中津市出身。60年第一タクシー㈲を創業。64年第一通産㈱(現第一交通産業㈱)を設立し社長に。2001年代表取締役会長

 

企業DATA
所在地 〒802-8515 北九州市小倉北区馬借2-6-8
TEL 093-511-8811
FAX 093-511-8812
創業 1960年6月
設立 1964年9月
資本金 20億2,755万円(グループ約48億円)
事業内容 タクシー事業、バス事業、不動産事業、自動車関連事業、金融事業他
年商 約831億円(連結09年3月期)
代表者 田中亮一郎
従業員 約14,500人(臨時従業員含む)
出先 (支社)福岡県、東京都(グループ事業所30都道府県)
関連会社 那覇バス㈱、琉球バス交通㈱、㈱第一ゼネラルサービス、第一OKパーキング㈱など120社
URL http://www.daiichi-koutsu.co.jp

採用情報
募集職種 総合職:業務、営業
応募資格 2011年大学卒業見込み(全学部全学科)
問合せ先 TEL.093-511-8811
担当 総務部人事課 山川、古橋

(ふくおか経済EX2010年)