FEATURE

ふくおか経済EX 2010

㈱筑水キャニコム


ものづくりは演歌だ
世界へ届けよ!キャニコムの義理・人情

(写真)モータースポーツドライバー・モンスター田嶋氏(前・右側)も駆けつけた草刈機「F1まさお」のデビュー式。包行社長(前・左側)をはじめ、社員の思いを込めた「F1まさお」は世界へ走り出す

顧客の心の声を「形」に

「ものづくりは演歌だ」、「義理と人情をお届けします」を標榜し、成長を遂げる企業がある。産業機械運搬車および草地機械を製造する㈱筑水キャニコム(包行均社長)だ。芝用草刈機「芝耕作」、発電機搭載マルチキャリア「伝導よしみ」、乗用草刈機「草刈機まさお」…など、思わず微笑んでしまうユニークな商品名が特徴で、ニッチ分野に特化した商品開発を得意とし、農業用運搬車輌で国内トップシェアを誇る。
包行社長の一瞬のひらめきで命名される商品名は、日刊工業新聞社主催の「ネーミング大賞」で全国1位の受賞実績を持つなど、業界内外で評価も高い。「お客さんが“草刈機”と言わず“まさおが毎日頑張っている”と、親しみを込めた言葉を聞くと胸が熱くなる。農作業は苛酷さ、時に危険が伴うもの。心身の負担を少しでも軽減できれば」と語る。
独自の商品名にこだわるのは、インパクトを残すことではなく、顧客に寄り添い、支えることが最たる目的であり、同社のポリシーだ。「ものづくりは目の前にいる相手が心の底からポロリと出した言葉を真摯に受け止め、全力で応えること」と力強く語る。
同社が成長を遂げる理由に、顧客と真正面から向き合う徹底した現場主義の姿勢、社員に積極的にチャンスを提供することが挙げられる。包行社長自ら現場へ向かうことはしょっちゅうで、営業部隊は「お客様のすべてに答えがある」と、言葉はもちろん表情も見逃すまいと、ビデオカメラを片手に全国を駆け回っている。
次に、2月1日に発売開始した新製品・草刈機「F1まさお」の開発の経緯、プロジェクトメンバーの声を紹介する。

「中国でキャニコムの商品を広めたい」海外メンバーとともに。(写真左側【左から】池強さん、華明さん、馬晶さん)(写真右側【左から】古澤健作さん、徐克玉さん、馬國強さん、李寧さん、何 さん、辻正和さん)

世界を見据え、新・草刈機「F1まさお」デビュー

今から2年前、包行社長が果樹園を営む顧客を訪ねていた時のことだ。その一家は息子が草刈機で草を刈り、残った草を祖父が手作業で処理するのが日課という。「草刈りの時間が短くなれば、孫とゆっくり遊べるんだけどねぇ」。祖父がふと漏らした言葉を聞き逃さなかった。
『刈り残しがない草刈機を作らなければ』。ものづくり魂に火がついた瞬間だった。こうして「F1まさお」のプロジェクトが始動した。
「F1まさお」は従来の草刈機の概念を払拭し、世界戦略商品の足掛かりとするもくろみがあった。これまで15年にわたり、培ったノウハウを結集し、果樹園、休耕田など今後の需要が見込まれる分野にいち早く打ち出すことで、世界にキャニコムブランドを浸透する狙いだ。
メンバーに課せられたのは①車高は低く刈高さは高く、F1車のように速く走ること②デザインにこだわり、鮮やかな黄色を使用して重厚感がありながらもスリムな車体にすること③刈り残しを少なくするため、小回りを利かせることだった。
メンバーの商品企画部責任者・中村公徳さんは「できないことに挑戦するのがメーカーの使命だという社長の言葉にハッとした。開発はお客様の言葉を形にすることで、お客様あってこそ成立する仕事。完成時の喜びは途中の苦しみをすべて払拭してくれる。商品の企画から設計、開発まで一貫して携わることができるのがキャニコムの最大の魅力」と語り、商品創造部MASAOセンター責任者・池田克久さんは「開発希望で入社した直後、営業部に配属となり、お客様にとことん向き合った経験が十分に生かされている。一人一人に与えられるチャンスが大きい環境に感謝し、今後は海外市場を視野に入れた商品開発に取り組んでいきたい」と語る。
約1年にわたり、同プロジェクトを牽引した、ものづくり部門総括責任者・大川司取締役は「最終段階はメンバー間を超えて、あらゆる社員が肩を並べ、試行錯誤を繰り返しながら商品化に取り組んでいた。印象深いのは、集中豪雨に襲われた休日にメンバーが工場にいたこと。一つのゴールに向かう時の集中力、熱意を見た瞬間だった」と振り返る。
固定概念を打ち破り、実現できなかったことを形にした「F1まさお」は、発売前から予約が殺到し、華やかなデビューを飾った。「完成前の商品に予約が殺到したことは初めて。大きな自信になった」と包行社長は胸を張る。

「お客様の声が形になった瞬間が開発のやりがい」F1まさおプロジェクトメンバーの池田克久さん(左)、中村公徳さん(右)

海外人材積極採用し中国・アジア展開本格化

商品開発のみならず、人材育成という視点でも、昨年から中国人留学生を採用し、中国およびアジア市場への営業を強化する組織体制を構築している。2010年4月入社10人のうち、6人が留学生で、今後も意欲が高い海外の人材を積極的に採用する計画だ。
今年4月に入社する何 (かう)さんは「中国にキャニコムの製品を広めたい。社員全員が温かく丁寧に指導してくれるので、意欲的にチャレンジしていきたい」と話し、徐克玉(じょかつぎょく)さんは「キャニコムの商品の魅力が伝わる宣伝を中国で作りたい。興味を持ったことにチャレンジさせてくれる環境に感謝している」と話している。
変化の激しい市況の中でも、ものづくりの真髄は「人」であると唱える包行流経営法。じっくりと顧客に向き合うスタイルを貫きながらも、斬新な商品化に取り組み、新たな分野の開拓にも余念がない。世界へ向けてキャニコムの浪花節を鳴らし、大きく飛躍する姿は見逃せない。

 

企業DATA
所在地 〒839-1396 うきは市吉井町福益90-1
TEL 0943-75-2195
設立 1955年12月
資本金 3億4740万円
事業内容 農業用・土木建設用・林業用運搬車・草地及び産業用機械の製造、販売
年商 51億円(09年3月期)
代表者 包行均
従業員 200人
出先 東京、群馬、宮城、兵庫、 広島、アメリカ、中国、チェコ
URL http://www.canycom.jp/

採用情報
募集職種 営業、技術、生産
採用実績 09年度5人、10年度10人
採用予定 11年度10人
問合せ先 人財部・武井まで

(ふくおか経済EX2010年)