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地域電力誕生八女の“エネルギー”を地場企業と共に
消費者が既存の大手電気事業者ではなく自由に電力を買うことができる新電力市場が拡大する中、八女・県南地区向けに電気を供給する新たな電力会社が誕生した。事業の一翼を担うアズマックスグループは、同事業を地域活性化の起爆剤と捉え、3年後には供給ベースで50MWを目標に掲げている。
地元企業出資の「やめエネルギー」設立
同社のほか、地場企業4社が出資して、八女市内に今年1月設立した新電力会社「やめエネルギー㈱」は、同市や周辺の県南地区に商圏を絞る形で電力を供給する。
首都圏や関西を中心に新電力会社が多数設立され、九州展開を見据えて福岡県内に事業参入する企業も増える中、地場のガス会社、不動産・建築会社なども新規参入。同じく県南の自治体主導で設立された「みやまスマートエネルギー㈱」が全国的に注目を集めるなど、県下の新電力市場は賑わいを見せている。
そうした中で地場企業とやめエネルギーを設立した背景を「市内の各世帯や事業者が九州電力に支払っている年間の電気料金は数十億円。その一部を地域電会社に切り替えることができれば、新サービスなどを通して、そのお金を地域に循環させることができ、地場経済が潤う。新たな雇用やビジネスを生み出し、人口減に悩む八女の定住促進にもつながるだろう」と中島一嘉社長は説明する。
供給の対象となるのは、一般世帯や個人商店向けの低圧、中小企業や工場向けの高圧の2種類があり、4月から本格的に供給を始めている。8月には供給ベースで採算ラインをクリアし、年度内10MW、3年後には50MW供給というのが、当面の目標となる。
「地域電力会社は物理的な“エネルギー”を供給するだけでなく、事業を通してその地域に住む方々に『自分も新しいことがしたい』『こんな素敵な地域循環モデルがある町に自分も住みたい』といった、精神的な“エネルギー(活力)”になると信じている。当社だけでは、事業の広がりは限定されるので、より多くの市民の理解、そして事業者の協力を得ていきたい」と、事業への思いを語る中島社長。その思いが通じ、3月から募集している出資者は30社以上にまで増え、少しずつ広がりを見せている。
農業、再エネ住宅通して、八女の魅力を発信
同社は40年前、創業者の中島東氏が建築板金・太陽熱温水器・住宅設備・家電販売などを手がける「ソーラーのアズマ」として八女の地で誕生。1999年から太陽光発電、施工を手がけることで、急成長を遂げてきた。
事業の核となるのは、太陽光発電所の建設で、今期は約7MWを施工、県が所有する施設の屋根貸しによる発電事業者にも選ばれた。自社でも発電所を約1.5MW分所有しており、売電収入による安定した経営基盤を構築している。
昨年7月には再生可能エネルギーを利用して農作物を栽培する農業法人「アズマックスファーム㈱」を設立し、トマトを栽培。八女の強みである農業・林業を通して、地域で発電した電力を地域で消費する“電力の地産地消”を目指している。
また、現在同市内に建設している戸建て賃貸住宅6戸は、各戸の屋根に太陽光パネル7kWを積載して毎月2万円分の電気を発電する仕組みで、入居者は月々の光熱費に充て、余剰電力を売電することができるスマートハウスだ。「農業も住宅開発も、八女の魅力を外に発信するのが目的。将来的にはやめエネルギーと連携させ、地域の強みをシナジーさせる仕組みをつくっていきたい」と展望を語る中島社長。
地方経済が大きな転換期を迎える中、地域電力が地方創生の起爆剤となるのか。同社はその可能性を探っていく。
[CHECK]
同社のトマトの糖度は14度を超える甘さ。ウルフギャングステーキとコラボするなどプロの評価も高い
(ふくおか経済EX 2017より)